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第52回沖縄県公衆衛生学会シンポジウム

第52回沖縄県公衆衛生学会大会シンポジウム

テーマ 「目に見えない新型コロナウイルスから見えてきた沖縄県の姿とこれから」

第52回沖縄県公衆衛生学会 学会長からのメッセージ

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と公衆衛生活動

―ナイチンゲールならばどう考えるだろうかー

金城 芳秀
沖縄県立看護大学

 2020年は、ナイチンゲールの生誕200年(Florence Nightingale, 1820年5月12日生)にあたり、世界保健機関(WHO)と国際看護師協会(ICN)が連携し、Nursing Nowのキャンペーンが世界的に展開される一年のはずであった(日本看護協会, 2020)。新型コロナウィルス(SARS-Cov-2)によるパンデミックは、世界中のナースを患者ケアの最前線に立たせ、現在進行形である。イタリアの医療崩壊とロックダウン(都市封鎖)の報道は、これから起こり得る危機を直視すべきと警鐘を鳴らした。患者家族が酸素ボンベを確保するために、死亡者の出た家庭に出掛けて、残ボンベの譲渡を依頼するという現実は衝撃だった。

 わが国でも感染者数の急増により、「緊急事態宣言(2020年4月16日全国拡大)」が発出され、テレワークとステイホームが求められた。スポーツ、芸術活動など予定されていたイベントの中止が相次いだ。医療現場では、感染対策用のマスク、フェイスガード、ガウンなどの深刻な不足を生じた。そして、各種のメディアを通して、三密(密閉、密集、密接)の回避メッセージが届き、社会と同様に大学も、換気とアルコール消毒を加えた感染症対策に取り組んだ。ナイチンゲールは「換気」に最大の注意を払った病棟を提唱・実現させた建築家でもある。「新しい生活様式」に基づく行動変容は、教育のあり方を抜本的に見直す必要が求められた。

 ナイチンゲールが残した言葉の一つに、「病気は暮らしのありようの中から生まれ、また暮らしのありようによって癒されていくもの」がある。実際、感染症だけではなく、がん、心血管系疾患、糖尿病などの非感染性疾患の罹患や死亡における危険因子がわれわれの生活習慣(食事、喫煙、飲酒、運動など)に含まれている。そして、COVID-19が重症化する約2割の方々の特徴として、肥満、高血圧、糖尿病など非感染性疾患の有病状態があり、高齢者であることが示された。回復者の一部は、心筋炎、神経症状など後遺症を生じることも分かってきた。もし濃厚接触者にもならず、感染者でもない場合、いまの暮らしのありようは継続すべきと考えられる。さらに、無症状の感染者が感染拡大の原因と危惧されていることから、先方の行動範囲や立場を考慮してから会食する必要がある。帰郷した教え子から久しぶりに会いたいと誘われても、オンライン上の対話を選択すべきときもある。

 WHOが定義したinfodemic(インフォデミック)は、現代社会の負の一面を明確にしている。インフォデミックでは、間違った情報や根拠のないうわさが大量に、あっという間に世界中に拡散し、人々の健康に悪影響を及ぼすという懸念が示された。なかでも、特定の個人・家族、クラスターの発生した地域や職業に対するソーシャルメディアでの意図した、あるいは意図しない差別的な意見、誹謗中傷が及ぼす悪影響を想像できないのはなぜだろう。WHO(2020)は正しい情報かどうかを見極める7つのポイントを提示している(www.who.int/news-room/spotlight/let-s-flatten-the-infodemic-curveより)。

 1.情報の出所(情報源)を確かめる(友人、家族が情報提供者だとしても本当か)

 2.ヘッドライン(headline)を鵜呑みにしない(ヘッドラインは意図的にセンセーショナルあるいは挑発的である可能性がないか)

 3.情報の著者を確かめる(著者名をオンライン検索して、本物か、信頼できるか)

 4.データをチェックする(情報は最新か、見出し、画像、統計はコンテキスト(文脈)から外れていないか)

 5.裏付けとなる証拠を調べる(その主張は信頼できる根拠に裏付けられているか)

 6.自らのバイアスをチェックする(信頼できるかそうでないかの判断はバイアスの影響を受けていないか)

 7.ファクトチェッカーに目をむける(誤情報、偽情報を検証する報道機関などのファクトチェッカー(例えば、International Fact-Checking Network)はとりあげているか)

 2021年3月現在、COVID-19パンデミックは、世界の感染者数が1億人を超え、256万人以上が死亡している。いまのところ、日本の感染者数は439,818人(死亡者8,262人)に留まっている。これと比較して、台湾、韓国、中国、ベトナムなど相対的な患者数の少なさには、山中伸弥博士(ノーベル医学・生理学受賞, 2012年)が問いかけたアジアにおける「ファクターX」が存在する可能性があるが、学ぶべき姿勢が多いと思われる。たとえば台湾では、2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の経験が生かされとされているが、基本的な感染対策(手洗い、マスク着用、ソーシャル・ディスタンシング)を国民一人一人が実践できたことが公衆衛生学的に重要である。

 これまで世界は、COVID-19の不確かさを一つひとつ確かにしてきた。この過程で生じた関連科学分野の共同、社会経済的な協働、市民間の連携など、COVID-19が開いた扉はアフターコロナにむけての世界に通じるのだろう。新たな健康危機・脅威に備えるためにも、経済状態も健康状態も様々な人々において、経済(世を治め民を救う)と衛生(人々の生をまもる)を問い続けなければならない。

 最後に、Richard Doll(1912-2005)のメッセージ、”Death in old age is inevitable but death before old age is not“を振り返り、COVID-19が引き起こした悪い結果もよい結果も、健康的な地域社会を考えるための公衆衛生活動に活かすべきである。ナイチンゲールならばCOVID-19のパンデミックを考えながら、どのような研究に基づいて実践するだろうか。

シンポジウムの紹介

学会長 金城 芳秀
沖縄県立看護大学

 本シンポジウムは、本学会幹事会にて承認され、私は企画の責任と併せて学会長を任された。本学会として「いまできること」として、「目に見えない新型コロナウイルスから見えてきた沖縄県の姿とこれから」による現状と展望の発信を考えた。

 シンポジストの発表内容は、オンラインで自由に視聴する方法である。いずれも、新型コロナ感染症対策の最前線に立ち、県民の生活と命を守られた各方面からの時機を得た情報発信である。

 このシンポジウムをとおして、いつ、どこで、何が行われ、どのような成果と課題が得られているか、一緒に考える機会となれば幸いである。

 なお、第53回の本学会では学会会場内にて(期待を込めて)、本シンポジウムのその後として、「アフターコロナの沖縄の公衆衛生活動」を討議できればと考えている。 

シンポジストとタイトル

シンポジスト所 属タイトルYouTube
南 信乃介特定非営利活動法人1万人井戸端会議 代表理事暮らしを捉えなおす すぐりむんYouTubeへ
徳松 安己彦一般財団法人 沖縄県環境科学センター
生活科学部微生物課 副参事
保育現場の巡回指導から見える感染症対策YouTubeへ
宮里 智子沖縄県立看護大学准教授新型コロナウイルス感染症 ホテル療養者のケアを通しての課題YouTubeへ
仲宗根 正那覇市保健所 所長(医師)新型コロナウイルス感染症 那覇市保健所の対応YouTubeへ
糸数 公沖縄県保健医療部
保健衛生統括監(医師)
新型コロナから見えるウチナーンチュの姿YouTubeへ

一般演題:発表用データ(原稿)のみ掲載予定にしています。